「さぁ皆! 今日から待ちに待ったテストが始まるよ!」
週明けのホームルームで教壇に立っている陽菜が力強くそう宣言した。
「テンションたっけぇ……別にそこまで待ち焦がれているわけじゃ……」
「ふぉおおお! 自分、この時を待ちに待っておりましたぞ陽菜教諭!!」
「私たちのこの1週間程の努力の成果……如何無く発揮させる時がついに来たのですわね!!」
「えぇ…………」
いつも通りの陽菜の高すぎるテンションについていけず半ば呆れ気味の修也に対し、黒沢さんと白峰さんはきっちりついていっている。
「おっ、気合十分だね2人とも! それに対して土神君はちょっと気合足りてないんじゃないかな?」
「テストにそんな気合要りますかね? コンディションを整えるくらいで十分でしょ」
「ええ、だから私たちもこうやってコンディションを整えているのですわ」
「いつも通りであることが一番のコンディション調整だとは土神殿も思いませぬか?」
「…………あぁそうだった、アンタらいつもそんな感じだもんな……」
不思議なものを見るような目で真面目に問いかけてくる2人を見て修也は頭を抱える。
「という訳で土神殿! いつも通りであるためにいつもの鋭い突っ込みをひとつよろしくお願いしますぞ!」
「私たちの輝かしい未来のためにご協力をお願いいたしますわ!」
「だから人の突っ込みを生活リズムに組み込むんじゃねぇと前にも言っただろうがっ!」
「うっひょおおおぉぉぉ!! キタキタキター! これ、やはりこれですぞおおおぉぉぉ!!」
「ドーパミンとエンドルフィンが凄い勢いで分泌されているのが感じ取れますわああぁぁ!!」
「なんかヤベェ薬やってるように見えるのは俺だけか……?」
突っ込みを受けて異様にテンションが上がっている黒沢さんと白峰さんを見て修也は若干引き気味に呟く。
「そう思うんなら突っ込み入れなきゃ良いと思うんだが」
「まぁそうなんだろうけど、どうにも突っ込まずにはいられないというか何と言うか」
「そういうものなのかしら? 私はあまり突っ込みは得意じゃないから分からないけど」
彰彦からの指摘を受けて呻くように呟く修也を見て首を傾げる爽香。
「……ふむ、ということは土神も突っ込みを入れることで何かしらの脳内麻薬が分泌されているのではないか?」
「えぇ……何か嫌だなぁそれ。もっと他にまともなの無ぇのかよ」
塔次の推察を聞いて修也は本当に嫌そうな顔をして唸る。
「それは土神が一番よく分かっているのではないか? 何をしている時が一番楽しいかを思い返してみるが良い」
「んー……何が楽しいか、ねぇ……?」
塔次に言われ修也は考えてみる。
……が、実のところ考えるまでも無く修也の中で答えは出ていた。
(まぁそりゃ蒼芽ちゃんと一緒にいる時に決まってるわな)
この町に引っ越してきてからというものの、何をするにしても蒼芽がそばにいてくれた。
蒼芽がいたからこそ灰色生活から脱却できたと言っても過言ではない。
(いつかきっちりと感謝を伝えられたら良いんだが……テストが終わったらまたデートに誘ってみるか?)
そんなことをテストが始めるまでぼんやりと考える修也であった。
守護異能力者の日常新生活記
~第7章 第26話~
「では…………始め!」
1限目開始のチャイムが鳴ると同時に担当教師の号令が教室内に響き渡った。
すぐさま修也は答案用紙に名前を書いて問題を解き始める。
(まずは基本問題……これはこの勉強会でも何回もやったな)
どこの世界のテストでも最初は基礎学力を問う問題が出てくる。
普通に授業を受け勉強をしてきた学生なら特に悩むようなところではないし、ここを解けないようでは話にならない。
修也も特に詰まることなく答えを書き進めていく。
(ふむふむ…………一応最後の問題まで目を通したけど、自信の無いものや分からんものもいくつか出てきたな……)
修也の答案の中にはいくつか空欄のままになっているところがある。
他にも解きはしたものの合っているかどうかの確証が持てないものも存在する。
幸い時間はまだあるので修也は記憶を掘り起こしながら考える。
(むぅ…………やっぱ分からん。仕方がない、空欄よりマシだ。それっぽいことで埋めておこう)
しばらく考えても答えが浮かんでこなかったので、修也は適当に解答欄を埋める。
それと同時に終了のチャイムが鳴り響いた。
「はい終了! 後ろから答案を集めてー」
「ほらよ、仁敷」
教師の言葉に従い、最後列だった修也はそのまま前の彰彦に自分の答案を渡す。
「ほいよ…………どうだった土神? 手応えはあったか?」
「んーまぁ悪くは無かったと思うけど。いくつか分からん問題もあったけどな」
「あぁそれ最後の問題じゃない? あれは確かに難しかったわね」
修也の言葉に爽香が応える。
「まぁテストって最初は簡単で最後は難しいってのが定番だからな」
「どれだけ難しい問題なのかは製作者の性格で変わるみたいだけどな」
「うむ。そういう意味では今回の試験の製作者は中々良い性格をしている」
1つ目のテストが終わった所感を話し合っている修也と彰彦に塔次が混ざってきた。
「あ、やっぱ難易度高かったのか」
「うむ、前半で時間を取られていては最後の設問を考える時間の余裕は無かっただろうな」
「あー……俺は分からん問題は飛ばしてとりあえず先に進んだなぁ」
「俺も俺も。いつまでもそこで足止めてたら時間がいくらあっても足りないし」
「そうだな。いっそ思考を切り替えて先に進むのは悪い手ではない」
「ちなみに氷室君は…………聞くだけ無駄でしょうね」
「ふっ……あの程度の問題で俺の手を止められるわけが無かろう」
爽香の問いかけに自信たっぷりに返す塔次。
「まぁ氷室はそんなもんだろうと思ってたが……霧生はどうだ?」
そう言って修也は戒のいる方を見てみる。
「……………………」
その戒は机の上に突っ伏したまま微動だにしていない。
「………………合掌」
「南ー無ー……まぁ補習頑張ってくれ。付き合ってはやれないけど応援はしておくから」
「夏の旅行に参加できないのは残念だけど、こればっかりはね……」
「妹さんには俺から上手く言っておいてやるから安心しろ」
「違わーい! 勝手にダメだったって決めつけんな!!」
戒の席に近寄り次々と憐みの言葉をかける修也たちに戒が勢いよく起き上がり突っかかってきた。
「いやあれは誰がどう見ても撃沈して魂抜けてた状態だろ」
「違ぇよ! 次のテストに備えて体力を回復させてんだよ!!」
「…………テストに体力って使うか?」
「しかも半日ランニングしても『ちょっと疲れた』程度で済む霧生が?」
「まぁ使う所が違うと消耗も激しいんでしょ。知らないけど」
「で、どうだ霧生。多少なりとも勉強会の効果はあったか?」
「あぁ、バッチリだぜ!」
塔次の問いかけに戒は自信満々に返す。
「おぉ……霧生からそんな言葉が」
「最初の問題は全部埋めることができた!」
「…………」
「……………………まぁ、霧生にしては頑張った方か」
その様子を見て感心しかけた修也だが、続いて出てきた言葉に何も言えなくなる。
しかし彰彦の言う通り、戒にしてはできた方なのだろう。
「うむ、何事も基礎の積み重ねが大事だ。即効性のある方法など存在しないのだ。一夜漬けなどは苦し紛れのその場しのぎでしかない」
「まぁ確かにそんな方法があれば誰も苦労しないわな」
「むしろそんな睡眠時間を削る方法は俺から言わせれば愚の骨頂だ。そんな頭が疲れた状態でテストに挑むなど無謀も良いところだ。霧生に分かりやすく言うなら全力疾走でのフルマラソン完走後に休み無しでサッカーの試合に挑むようなものだな」
「うぇえ……流石にそれはキツいな……」
塔次のたとえ話を聞いた戒が顔をしかめる。
「だから今の霧生の頭を休めるという方法は理には適っている」
「おっ、そうか! 氷室がそう言うってことはこれは間違っちゃいないんだな!?」
「だが……時間が足りんな」
そう言って塔次が目線を向けた先の時計は、次のテスト開始の5分前を指していた。
次の担当教師がテストを持って教室に入ってくる。
「あ…………」
「まぁ……10分休みで全回復は流石に無理だわな」
「でも気晴らしにはなったんじゃない? 何も目を閉じて体を休めることだけが休憩じゃないわよ」
「頭を使って疲れたんなら尚更だな。まぁ2つ目も頑張れ霧生」
そう言って修也たちは各々の席に戻りテストの準備を始める。
程なくして2つ目のテスト開始時間となった。
修也たちはどうということは無いのだがやはり戒にとっては辛いもののようで、明らかに1つ目のテストの時より消耗している。
(おっと人のことよりもまずは自分だな)
いつまでも戒を気にかける訳にもいかないので、修也は自分の所に配られてきたテストに意識を向ける。
問題の構成は1つ目のテストの時と大差は無い。
修也は先程と同じように始めから順に解いていき、少し考えても分からなければ一旦置いておいて先に進んでいく。
(…………あっ! そうだ思い出した。この問題は……)
今回は途中で解き方を思い出せたので空欄になっていた箇所をきっちり埋める。
「…………はいそこまで!」
しばらく経った後、終了のチャイムと同時に担当教師の声が教室内に響く。
1回目のテストと同様に答案用紙を集め、担当教師は教室を出ていった。
「ふぅ、2つ目も終わったな。今日はあと1つか」
「どこの学校でも1日3教科なのは変わらんのな」
「まぁ流石に4つは色々とキツいわよ」
「2つで死にかけてるやつもいるがな」
次のテストが始まるまでの休憩時間で席の近い修也たちと塔次が再び集まる。
塔次の言う2つのテストで死にかけてる戒は話に参加する気力も無いようだ。
「……あれは流石にそっとしておいてやろう」
「下手に絡んで3つ目のテストで赤点取って恨まれるのも嫌だしな」
修也たちもそんな戒の状態を見て揶揄う気にはいくら何でもなれない。
「ところで今日は放課後の勉強会はやるの?」
「いやぁ流石に今日は無しで良いだろ。昼飯も用意してないし」
「学食も今日は休みだし。じゃあ次のテストが終わったら今日は解散な」
そんな話をしているうちに3つ目のテストの担当教師が教室に入ってきた。
3つ目のテストも特に何も変わり映えはしない。
そもそもテストでそんな大きな変化などあるはずがない。
(流石に藤寺先生もテストなら何もしようが無いか)
何だかんだ言っても生徒のことを思いやる心を陽菜は持っている。
そんな陽菜がテスト中に何かやらかすとは考えにくい。
それに陽菜の担当教科は体育だ。
少なくとも今回は座学としての体育のテストは無い。
なら陽菜が介入してくる余地は無いだろう。
(それにテスト中ならあの2人も大人しいしな)
白峰さんと黒沢さんもテスト自体は真面目に受けている。
テスト勉強の時はやたら大騒ぎしていたあの2人もそこまで空気が読めない訳ではないようだ。
(……うん、やっぱり俺はこういう静かな空間で黙々と作業をするのが向いてるっぽいな)
蒼芽たちとわいわい楽しく騒ぐのも良いが、やはりこちらの方が自分には合っている。
そのことを再認識しつつ修也は集中して3つ目のテストを解き進めていった。
「ふぅーー終わった終わった!」
3つ目のテストも終えてホームルームも終わったので修也は大きく伸びをする。
「まだ1日目だけどな。それでも解放感あるよなー」
「そうね、とりあえずはひと段落ね」
彰彦と爽香も心境は修也と同じらしく、晴れやかな表情をしている。
「3人とも1日目の塩梅はどうだ。手応えはあったか?」
「そうだなぁ、それなりにできたとは思う」
「俺はこの学校では初めてのテストだから比較はできないけど、まぁ良い感じだとは思うな」
寄ってきた塔次の問いに彰彦と修也はそう答える。
「テストなんてどこで受けようが変わらないでしょ。結局のところ製作者の性格に左右されるんだから」
「それを言ったら身も蓋も無いだろうが。ところで……」
爽香の言葉にため息を吐きつつ修也は戒の方を見る。
その戒は完全に燃え尽きたようで真っ白になって机の上に伏せていた。
そのうち真上から天使が降りて来てどこかへ連れて行ってしまいそうな様相である。
「……あれ、生きてっか?」
「かろうじて息はしているようだが」
「でも存在が消えかかってるわよ? 私が着飾った時に横に立ってる彰彦みたいな感じね」
「え、俺あんな風になってるわけ?」
それを見た修也たちが小声で呟き合う。
「……で、どうするよアレ」
「そっとしとけば良いんじゃない? そのうち回復して帰るわよ」
「いやぁ……流石にクラスメートがあんな風になってるのを放置するのはどうかと……」
「でも俺らにできることって何も無くね?」
「うむ、今の霧生に必要なのは休憩だ。心身ともに休ませてやるのが良かろう」
そう話を纏めて静観を決め込むことにした修也たちだが……
「お疲れ様ですわ霧生さん! 勉強会の成果は出まして?」
「自分たちはバッチリですぞ! よもやここまで手応えを感じられるとは思いませんでしたな」
白峰さんと黒沢さんは遠慮なく戒に話しかけに行った。
しかし今の戒に2人の相手をする余裕は無いようだ。
「……あら? 返事がありませんわね?」
「ただのしかばね……ではないでしょうが、霧生殿にテストは我々が想像する以上に負荷がかかっていたのでしょうなぁ」
「そういう時はこれですわ! 私が普段から持ち歩いているこれを差し上げます」
そう言って白峰さんは戒の机の上にラムネ菓子を置いた。
「それなら自分の持っている飴玉も差し上げましょうぞ。疲れた時は甘いものを摂取するのが定番ですぞ!」
続いて黒沢さんも飴玉を置く。
「う…………く、食い物……」
それを見た戒がわずかに動き、白峰さんの置いたラムネ菓子の包装を開ける。
そして一気に口の中に放り込んだ。
「っあぁーー……少し楽になった気がする……ありがとう2人とも」
「それは良かったですわ。量が少なくて申し訳ありませんが」
「霧生殿もこのようなポケット菓子を持ち歩いては如何ですかな? こういう時に役立ちますぞ」
「ただ持ち歩くものを選ぶ際には注意が必要ですわ」
「如何にも。チョコを選んだ日には溶けて大惨事になりますぞ」
少し持ち直した様子の戒を見て軽く笑う白峰さんと黒沢さん。
「……あの2人も時には良いことやるんだなぁ……」
「それよりそんなすぐに効果は出るものなの?」
「個人差はあるな。当人の思い込みも加わると一概に無いとは言えん」
「あぁ、プラシーボ効果ってやつか。霧生には効きそうだなぁ」
珍しくまともな2人を見て少し感心する修也たちであった。
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