守護異能力者の日常新生活記 ~第3章 第17話~

「……………………」
「……………………」
「おはよう仁敷、爽香……何やってんの、アレ?」

2階で教室に向かう蒼芽と別れ、3階で階段を上る華穂と別れて自分の教室へ向かう修也。
特に何事も無く教室に入ると、白峰さんと黒沢さんが机を向かい合わせて座り、一心不乱に何かを書いていた。
気にはなるものの深入りするのは避けたい修也は先に来ていた彰彦と爽香に尋ねる。

「おはよう土神」
「おはよう土神君。ほら今週あの2人、きのこたけのこ論争で熱く語り合ってたでしょ?」
「あぁ……そんなこともあったな」

今週の話なのに遠い目をする修也。

「それでお互い創作小説を書き綴ってただろう?」
「あぁ……あのきのことたけのこの謎小説な」

修也は未だにどこに需要があるのか理解できない2人の小説の内容を思い出しげんなりする。

「それをきっかけに溢れ出した創作意欲が抑えきれず、今度は創作漫画に手を出し始めたらしいのよ」
「……はぁ?」

爽香の言葉に気の抜けた返事をする修也。
遠目に見てみると、確かに2人が向かっているのは400字詰めの原稿用紙ではなく元が真っ白であったであろう原稿用紙だ。

「……で、どんな漫画描いてんだ? やっぱきのことたけのこ?」
「知らないわよ。気になるなら本人たちに聞いてみれば?」
「……いや、流石にアレに割って入る気はない」
「確かにな……気持ちは分かる」

修也に同調する彰彦。
第三者として傍観する分には害も無いし面白いから良いのだが、関わり合いになると途端に面倒になる。
それを重々承知しているので少し離れて様子を伺うことにした3人。

「ああああああああ!!!」
「ぬわああああああ!!!」
「っ!?」

その時何の前触れも無く同時に叫んで勢いよく立ち上がる白峰さんと黒沢さん。
急に大声を出されたことで修也たちだけでなく他のクラスメイトも何事かと驚いて2人の方を見る。

「黒沢さんっ! なぜあなたのきのこさんはそんな中性的で整った顔立ちですの!? 私のイメージでは筋肉質で精悍な殿方ですのに!!」
「白峰殿こそなんですかそのたけのこ殿のキャラメイクは! 自分はもっと大人になり切れていないショタっ子を想像していたのに白峰殿のそれは隻眼で髭が似合うナイスミドルではないですか!!」

どうやらお互いのキャラメイクに不満があったらしい。
顔を至近距離まで近づけヒートアップして叫び合う白峰さんと黒沢さん。

「……まぁこれはこれで中々……」
「ですな。こういうのも意外とアリですなぁ」

……と思ったらすぐにクールダウンして椅子に座りなおした。
どうやら満更でもなかったようだ。

「……やっぱりきのことたけのこの話だったか」

どうでも良い無駄知識がまた1つ増えてしまったことにため息を吐く修也であった。

 

守護異能力者の日常新生活記

~第3章 第17話~

 

「はーいホームルーム始めるよー」

チャイムが鳴るのとほぼ同時に陽菜が教室に入ってきた。

「……あら? もうそんな時間ですの?」
「つい夢中になって時が経つのを忘れておりましたな」

そう言って原稿用紙を片付ける白峰さんと黒沢さん。

「おっ、もしかしてそれってきのこたけのこの原稿かな? 見せて見せて!」

2人が片付けた原稿用紙を見つけた陽菜が2人の側へ駆け寄る。

「申し訳ありません陽菜先生。これはまだ未完成品なのです」
「いーよいーよ。今できてるところまででも見たいんだよ」
「それにこれは小説ではなく漫画なのであります。不慣れ故とても人様に見せられるようなものでは……」
「へぇー! 2人とも漫画も描けるんだ! 凄いじゃない!」

そう言って素直に賞賛する陽菜。

「こういう所は藤寺先生の良い所よね。生徒がやってることを決して否定しないし馬鹿にしない」
「そうだな。どんな小さな夢でも傍から見たらどうでも良いようなくだらない物でも全力で応援してくれるよな」

爽香と彰彦がそんな陽菜の様子を見ながら呟く。

(……確かに。何だかんだ言っても生徒のことをしっかり考えてくれてる先生だよな)

修也も2人の意見に同意だ。
修也も一度悩みを陽菜に相談したことがある。
まだ転入手続きをしただけで正式にクラスに組み込まれていなかったのにしっかりと相談に乗ってくれ、アドバイスも与えてくれた。
普段全力でふざけてはいるが良い教師だと修也は思う。

「ふむふむ……不慣れって黒沢さんは言ったけど良く描けてると思うよ。漫画としての見せ方もきっちりと分かってるし」

陽菜は2人の原稿を読みながら感想を述べる。

「そうですか? 陽菜先生に言われるとなんだか自信が湧いてきますわ」
「同感ですぞ。陽菜教諭の言葉はいつも我々にやる気を与えてくれますな」

陽菜に褒められて白峰さんと黒沢さんは照れ笑いを浮かべる。

「しかーーーーーし! まだ足りない!! 2人の情熱はまだまだそんなものじゃないはず!!」
「えぇっ!?」
「何ですと!?」

突如大声を出した陽菜に驚く白峰さんと黒沢さん。

(あ、何か雲行きが怪しくなってきた)

一方で修也は何やら嫌な予感が脳裏を掠めだした。

「私は知っているっ! 2人のきのことたけのこにかける情熱の熱さを!!」
「は、陽菜先生……!」
「見抜かれていたのでありますか……陽菜教諭の目は騙せませんな……!」

陽菜の熱弁に心を震わせている2人。

「さぁ、遠慮することは無い! 2人の胸の奥にたぎるマグマのごとく熱い情熱をその原稿用紙にしたためるんだっ!」
「はいっ!」
「心得ましたぞ!!」
「君たちは漫画界の伝説となれる逸材! いざ目指すは、際どすぎて修正しないと即売会での出品が認められないレベルのきのことたけのこの濃厚な絡みが全体の9割を占める同人誌だっ!!」
「未成年にそんなもん勧めんじゃねぇっ!!」

とんでもないことを言い出した陽菜にとうとう我慢できなくなった修也が全力でツッコミを入れる。

「……よし、土神君のキレの良いツッコミが聞けたところで本当にホームルーム始めるよー」
「やはり土神さんのツッコミは切れ味が違いますわね、うふふふ」
「最近では土神殿のツッコミが無いとどうにも締まりませんからなぁ……ドゥフフフフ」

修也のツッコミを境にしれっとテンションを戻す3人。

「……そんな所で俺の存在意義を見出さないでくれ……」

呻くような修也のその呟きが3人に届いたのかは不明である。

 

「……ということが朝早々にあってだな」
「……つ、土神……くん? 君は……私を、笑い死にさせる……つもり、なのかな……?」

放課後修也と廊下を並んで歩いていた華穂は、今朝の2-Cでの出来事を修也から聞いて壁に手をついて肩を震わせていた。
言葉を何度も詰まらせ息も絶え絶えになりながら、なんとか言葉を絞り出す。

「いや、先輩もこういうエピソードを期待してる節があるから」
「確かに面白いけど! もっと聞きたいけど! 毎回私の想像を超えてくるのはどうなの!?」
「それを俺に言われてもなぁ……」

華穂を毎回爆笑の渦に引きずり込んでいるのは白峰さんと黒沢さんだ。
文句があるのであればあの2人に言ってほしい。
修也は切にそう願う。

「あっ修也さん、それに……姫本先輩……?」

たまたま通りがかって修也の姿を見かけた蒼芽がそばにやってきたが、華穂の様子がおかしいことに首を傾げる。

「あの、修也さん? 姫本先輩はどうしたんですか?」
「いや……俺のクラスでのエピソードの1つを話したらこうなった」
「端折りすぎです修也さん」

簡潔すぎる修也の説明に半眼になりながら返す蒼芽。

「いやここで丁寧に説明したら今度こそ華穂先輩の腹筋が崩壊する」
「は、はぁ……?」

真顔で良く分からないことを言う修也に対し、疑問顔で曖昧に頷く蒼芽。

「ふぅー……落ち着いた。いやホント土神くんのクラスの話はいつ聞いても面白すぎるよ」

胸元に手を置いて深呼吸した華穂が復活する。

「あ、蒼芽ちゃん。やっほー」
「こんにちは、姫本先輩」

蒼芽に気付いた華穂が朝同様蒼芽に片手を挙げて挨拶する。
蒼芽も朝同様に軽く頭を下げて応える。

「修也さんがすみません、姫本先輩……」
「良いの良いの。私も楽しんでる所あるし」
「と言うかナチュラルに俺を所有物化するのやめてくれないか蒼芽ちゃん」
「あっすみません、つい……」

修也の物言いに苦笑いで返す蒼芽。

「あっそうだ。蒼芽ちゃんのクラスででも何か面白いエピソードって無い?」
「えっ?」

急に話を振られた蒼芽は言葉に詰まる。

「いやー、今の状況が状況だから面白い話で思いっきり笑って気分を上向きにしたいんだよね」
「あ、それで修也さんはそう言う話をしてるんですね?」
「効果が抜群すぎてちょっとやりすぎ感が否めないけどな」
「あ、あはは……」

さっきの光景を思い出したのか、再び苦笑いを浮かべる蒼芽。

「で、何か無いかな?」
「急に言われましても……あ、面白いかどうかは分かりませんが先日私のクラスで1組のカップルができまして」
「え、何々? そう言う話も大歓迎だよ!」

蒼芽の話に興味津々な様子で目を輝かせる華穂。

「ちょっ、蒼芽ちゃん! その話は……!」

心当たりのある修也は慌てて止めようとしたが……

「止めないで土神くん! 女の子にとって恋バナは最優先の興味対象なんだよ!!」

華穂に強く遮られてしまった。

「いや、そうは言っても……」
「蒼芽ちゃん、続き続き!」

もう修也の言うことに耳を傾けず蒼芽に続きを促す華穂。

「あ、はい。そのカップルが誕生したきっかけなんですが……」

華穂に促され、先日自分のクラスで生まれた陣野君と佐々木さんがカップルになった経緯を話す蒼芽。
その結果……

「ず……ずるいよ、蒼芽ちゃん……恋バナに見せかけた……笑い話、とか……不意打ちすぎる……」

またさっきと同じ体勢になってしまった華穂。

「だから言ったのに……」
「えぇっと……私はどうすれば……」

そんな華穂を見て呆れる修也とオロオロする蒼芽。

「うん、まぁ……先輩の笑いが収まるまで待つしかないな」
「何か……すみません」
「だ、大丈夫……気にしないで蒼芽ちゃん。と言うか土神くん、本当に神様みたいな扱いになっちゃってるね!」
「いやホントなんでこうなった」
「あ、あはは……」

今の修也の1-Cでの扱いについて感心する華穂と引き続き呆れる修也に苦笑いする蒼芽。

「ねぇねぇ、それはともかくせっかくまた3人揃ったんだからさ、今日もどこかへ何か食べに行かない?」
「何かって……何を? 今日は特に何も情報仕入れてないぞ?」

華穂の提案に首を傾げる修也。

「昨日と同じでは味気ないですしね……せっかく行くなら違うものを食べたいですよね」
「昨日話題にでたカフェはどう?」
「うん、まぁ無難な線かな……?」

学校の帰り道にちょっとカフェに寄ってお茶しに行く。
中々優雅なイメージが修也の脳裏を掠める。

「それかこれまた昨日話題にでたラーメン屋」

しかし次の華穂の言葉で一気にイメージが体育会系寄りになってしまった。

「いやそれは無いだろ。俺はともかく蒼芽ちゃんや華穂先輩が寄り道して行く所じゃないな」

帰りに一緒にラーメン屋に行くとしたら最適なのは戎、次点で彰彦だろう。

(……いや、霧生は霧生でアホみたいに食ってるのを横で見せられて胸やけしそうだな……)

わんこそばのごとくラーメンをかきこみ続ける戒を想像して修也は少し気分が悪くなった。

「私は修也さんが行くならお供しますけど」
「私も土神くんが行きたいなら行くよ?」
「いや……女の子連れてくならもっと洒落た所にしたい」
「分かりました。じゃあ探しておきますね」
「ああ……あれ? 何かおかしくないか?」

修也が蒼芽を連れていきたい場所を蒼芽が探すというなんだかおかしな事態に頭を捻りながら校舎を出ると……

「……あっ来た来た! おーい土神くーん!」
「帰ろうとしてるところ悪いわね。ちょっと良いかしら?」

校門に立っていた瀬里と優実が修也に気付いて声をかけてきた。

「……あれ? 七瀬さんと高代さん? どうしたんですか?」
「ちょっと君に話しておきたいことがあってねー。ほらこの前頼まれてたやつ」
「私は昨日の件の情報収集といった所かしら」

それぞれここにやってきた目的を説明する2人。

「でもそれよりも面白そうなネタが転がってきたねぇ。土神君、そんな可愛い子を2人も連れて帰っちゃって……これはゴシップの香りがプンプンするよウヘヘヘヘヘ」

と思ったら瀬里が悪い顔になって修也ににじり寄ってくる。

「すみません七瀬さん、パパラッチ1人連行してくれませんか」
「ごめんなさいね土神君。警察はパパラッチ程度ではどうこうはできないの」

割と真顔で優実に訴えかける修也に対し、残念そうに首を振る優実。

「じゃあ変態1人しょっ引いてくれませんか。まだ学校の中にいると思うので」
「ごめんなさいね土神君。あれは警察でどうこうできるような人じゃないのよ」

今度は結構真剣に優実に訴えかける修也に対し、申し訳なさそうに首を振る優実。

「まぁこんな所で立ち話も何だしさ、どっか座れる所に行って話そうよ!」

空気を切り替えるかのように瀬里が明るい声を出す。

「あ、ちょうど私たちもどこか寄り道しようかって話し合ってた所なんです」
「じゃあちょうどいいね! お金は出してあげるから行こう行こう!」
「えっ? 良いんですか?」
「そんな、悪いですよ……」
「せめて自分たちの分くらいは……」

そう言って修也・蒼芽・華穂は遠慮しようとするが……

「いーからいーから。学生は学生らしくお姉さんに任せなさいって!」

そう言って握り拳を作って自分の胸を叩く瀬里。

「じゃあそういうことなら遠慮なく」
「いやアンタは払えよ社会人!」

こっそり便乗しようとする優実にツッコミを入れる瀬里。

「相変わらず仲良いですねぇ……」

2人のやり取りを見て少々呆れつつも、仲の良さに羨ましさを感じる修也であった。

 

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